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東京地方裁判所 昭和47年(むのイ)459号 決定

被疑者 ○○○○

右の者に対する傷害致死被疑事件について、昭和四七年六月一四日東京地方検察庁検察官長沢潔がなした接見に関する指定に対し、同日弁護人弁護士富永赳夫からその取消を求める準抗告の申立があつたので、当裁判所はつぎのように決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一本件準抗告の申立の趣旨およびその理由は別紙弁護人富永赳夫作成の準抗告の申立書ならびにこれを補充する報告書に記載されているとおりであるからこれをここに引用するが、その要旨はつぎのとおりである。すなわち弁護人は昭和四七年六月一四日午後三時三〇分頃東京都中央区所在の自己の法律事務所から電話をもつて、同都北区所在の東京地方検察庁(第二庁舎)検察官長沢潔に対して、警視庁向島警察署に勾留されている被疑者と同日接見したい旨の申し入れをしたところ、同人は「検察庁まで接見指定書をとりにきて下さい。接見指定書はいつでも出します。」と答えただけで口頭による指定を拒否した。しかし、元来刑訴法三九条三項に基づく接見の指定は、単に電話など口頭をもつてすれば足りるのであつて、検察官の所在する検察庁まで行つて指定書の交付をうけなければならないいわれはなく、かかる指定は刑訴法三九条一・三項に違反する違法な方法であるからその取消を求める、というのである。

二当裁判所の事実調の結果によると、右弁護人主張の事実はこれを認めることができ、検察官においては弁護人が来庁すれば同日指定書を交付して接見に関する指定をするつもりでいたことが認められる。

三刑訴法三九条三項は、同項に基づいて行なう捜査機関の接見指定の方式については明記するところがない。しかし、同項による処分に対しては不服申立が許されるのであるから(刑訴法四三〇条一・二項)右処分の内容を手続上明らかにしておく必要がある。さらに接見に関する指定をした者、右指定をうけた者、監獄の長などとの間において、指定内容に関して将来生ずる過誤、紛争等を未然に防止して接見手続の円滑を計る必要のあることもまた明白である。したがつて、特に、弁護人において、ただちに接見をする必要があるなど特段の事情があるばあいは格別、そうでない場合においては、捜査機関が接見の指定を書面でなすことは、右のような諸点を考えると誠に理由のあることであつて、そのために、接見の時間等において、若干の不便が弁護人側に生ずることがあつても、かようなことは刑訴法三九条一・二項の許容するところと考える。

ところが、当裁判所の事実調の結果によると、本件においては、弁護人において、ただちに被疑者と接見する必要があつたことは認められないし、前記検察官、弁護人、被疑者の距離関係等からみて、検察官が要求する方法に従つたとしても同日、弁護人が被疑者と接見することは十分可能であつたことが認められ、前述のような特段の事情は認められない。

よつて、本件準抗告の申立は理由がないと認め、刑訴法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

(豊吉彬)

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